
以前、我が家のソーラーパネルに取り付けている逆流防止ダイオードが熱で溶けたという記事を書きました。
その時、発熱状況を確認するために放射温度計を使ったところ、逆流防止ダイオード付近で、
84.1℃
というかなり高い温度が表示されました。
実際に触ってみても2秒程度しか触れていられないほど熱くなっていたため、高温になっていたこと自体は間違いなさそうでした。
ただ、その時使っていた放射温度計には少し疑問もありました。
室内の温度計が25.6℃くらいなのに、放射温度計で周囲を測ると31℃程度になることがあり、
「この放射温度計、本当に信用していいのか?」
と思っていたんです。
そこで今回、新しく購入したのが、
シンワ測定 放射温度計 B レーザーポイント機能付 73010です。

シンワ測定(Shinwa Sokutei) 放射温度計 B レーザーポイント機能付き 73010
シンワ測定ならスケールや測定工具などでもよく見るメーカーなので、前に使っていた物よりは安心して使えそう。
そう思って説明書を読んでいると、今まで意識したことのなかった言葉が出てきました。
それが、
「放射率 0.95」
です。
「放射率って何?」
これが今回の記事を書くきっかけになりました。
放射温度計は「温度そのもの」を直接測っているわけではない
普通の温度計なら、センサーを測定物に接触させて温度を測ります。
しかし放射温度計は対象物に触れていません。
では、どうやって温度を測っているのでしょうか。
物体は温度に応じて赤外線エネルギーを放射しています。
放射温度計はその赤外線をセンサーで受け取り、
「これくらいの赤外線が出ているなら、このくらいの温度だろう」
と計算して温度を表示しています。
今回購入した73010の測定波長は8~14μmです。
簡単にすると、
物体 → 赤外線を放射 → 放射温度計が受信 → 温度に換算
という仕組みです。

ここで重要になってくるのが「放射率」です。
放射率とは?
放射率とは簡単に言えば、
その物体が赤外線をどれくらい放射しやすいか
を表した数字です。
理想的な黒体を1として、実際の物体はそれより小さな値になります。
塗装面やゴム、樹脂などは比較的放射率が高いものが多い一方、光沢のある金属は低くなることがあります。
特に、
- 磨いたステンレス
- アルミ
- 銅
- その他の光沢金属
などは注意が必要です。
光沢のある金属は放射率が低いだけでなく、周囲から来た赤外線を反射しやすいため、放射温度計では測定が難しくなる場合があります。Flukeも、光沢金属では非反射テープやつや消し面を使って測定する方法を案内しています。
シンワ73010は「放射率0.95固定」
今回購入した73010の放射率は、
0.95固定
です。
つまり測る物に合わせて0.3や0.8などへ自由に変更するタイプではありません。
シンワの仕様では、73010は測定範囲-60~500℃、放射率0.95固定、距離係数12:1となっています。
この「0.95固定」という意味を知らず、
「どんな物でもレーザーを当てれば温度が測れる」
と思っていたのが、今までの私でした。
まず室内で試してみた
そこで最初に、室内で簡単な測定をしてみました。
室内の温度計は、26.3℃でした。
その温度計の近くにステンレス板を貼って、73010で測定してみました。
結果は、26.1℃でした。

次に、そのステンレス板に黒いテープを貼って測定。
結果は、25.6℃でした。

さらに表面が少しザラザラしたアルミ板を同じ場所に置いて測ると、
25.6℃でした。

結果を並べてみるとこうなります。
| 測定対象 | 温度 |
|---|---|
| 室内温度計(空気温度) | 26.3℃ |
| ステンレス板 | 26.1℃ |
| ステンレス+黒テープ | 25.6℃ |
| ザラザラしたアルミ板 | 25.6℃ |
ここで注意したいのは、室内温度計が測っているのは空気温度で、放射温度計が測っているのは物体表面の温度ということ。
そのため、26.3℃と完全に一致しなかったからといって放射温度計が間違っているとは言えません。
また、73010は0~500℃では**±2%または±2℃の大きい方**という精度なので、この程度の差は十分あり得る範囲です。
むしろ今回の室内測定では、どれも25.6~26.1℃に収まり、極端におかしな数字は出ませんでした。
ただし、
「ステンレスでも正確に測れる」
という意味ではありません。
今回はステンレス板も周囲もほぼ同じ室温だったため、低放射率の影響や周囲からの反射が目立ちにくかった可能性があります。

ここから本番。ソーラー設備を測ってみた
次に屋外へ移動しました。
この時の外気温は、30℃でした。
まず、並列になった配線の合流地点を測定。
流れていた電流は、18.1A
温度は、42.5℃でした。

外気温30℃に対して約12.5℃高い状態です。
18Aを超える電流が流れている場所なので、今後も温度変化を確認しておきたい部分です。
逆流防止ダイオードを測定
そして今回、一番確認したかったのがここ。
逆流防止ダイオードです。
ダイオード直後を流れていた電流は、6.1Aでした。
まず、逆流防止ダイオードに対してできるだけ垂直に近い方向から測定しました。
表示された温度は、58.2℃でした。

外気温30℃に対して約28℃高い温度です。
前回の84.1℃ほどではありませんが、それでもかなり発熱しています。
同じ場所なのに、測り方を変えると34.1℃になった
ここからが今回一番面白かったところです。
次に放射温度計を横向きにして、逆流防止ダイオードに対して水平に近い方向から測ってみました。
レーザーポイントを逆流防止ダイオードそのものに合わせて測定すると、
なんと、34.1℃でした。

さっきまで58.2℃だった場所が、
34.1℃。
差は24.1℃もあります。
最初にこれだけを見ると、
「測る角度によってこんなに変わるの?」
と思ってしまいます。
しかし73010の仕様を確認すると、原因と思われることが分かりました。
レーザーの赤い点が「測定場所」ではなかった
シンワ測定の73010には、かなり重要な注意があります。
それが、
「レーザーポイントの約2cm上が測定範囲直径の中心」
というものです。
つまり私は、
レーザーの赤い点そのものを測っている
と思っていたのですが、実際の測定中心はそこではありません。
イメージすると、
○ ← 実際の測定範囲の中心
約2cm
● ← レーザーポイント
という関係です。
特に逆流防止ダイオードのような小さな部品では、この2cmのズレはかなり大きい。
そこで試しに、
レーザーの点をダイオードより少し下にある白いエアコン用ダクトへ合わせてみました。
すると、52.7℃になりました。

見えにくいですがレーザーは白いダクトを指しています。
しかし実際の測定範囲の中心はレーザーより約2cm上。
つまり、
実際には逆流防止ダイオード付近を測っていた可能性が高い
ということです。
この結果はかなり分かりやすいと思います。
| ダイオード測定方法 | 表示温度 |
|---|---|
| 正面・垂直方向 | 58.2℃ |
| 横方向・レーザーをダイオードへ | 34.1℃ |
| 横方向・レーザーを下の白いダクトへ | 52.7℃ |
レーザーをダイオードに当てた34.1℃より、レーザーをダイオードの下へずらした52.7℃の方が、垂直測定58.2℃にかなり近い値になりました。
この実験だけで原因を完全に断定することはできませんが、
レーザーポイントと実際の測定範囲中心がずれていることが大きく影響している
と考えるのが自然だと思います。
さらに「測定範囲の大きさ」も重要
レーザー位置だけではありません。
73010の距離係数は、
12:1
です。
つまり距離が離れるほど、測定している範囲は広くなります。
| 測定距離 | 測定範囲直径の目安 |
|---|---|
| 12cm | 約1cm |
| 24cm | 約2cm |
| 36cm | 約3cm |
| 60cm | 約5cm |
| 120cm | 約10cm |
例えば直径1cm程度の小さな部品を30cm離れて測れば、測定範囲は約2.5cm。
目的の部品だけでなく、
周囲のケーブル、端子、樹脂、ダクトなど
まで測定範囲に入る可能性があります。
他の有名メーカーも、小さい対象物を遠くから測定すると周囲の温度を拾って測定値が変わるため、対象物は測定スポットより大きくする必要があると説明している所があります。
放射温度計は、
「レーザーが当たった1点を測っている道具」ではない
ということですね。
前回84.1℃、今回は58.2℃。温度計が違うから?
ここで前回の測定と比べてみます。
前回は旧放射温度計で、
逆流防止ダイオード付近 84.1℃
でした。
その時の電流は約6.52A。
今回は、
6.1Aで58.2℃
でした。
| 項目 | 前回 | 今回 |
|---|---|---|
| 使用温度計 | 旧放射温度計 | シンワ73010 |
| ダイオード付近 | 84.1℃ | 58.2℃ |
| 電流 | 約6.52A | 6.1A |
| 温度差 | - | 前回より25.9℃低い |
【写真⑭:前回84.1℃】
【写真⑮:今回58.2℃】
数字だけを見るとかなり大きな差です。
ただし、
「旧温度計が25.9℃も間違っていた」
とは言えません。
測定した日が違えば、
- 外気温
- 日射量
- ソーラーパネルの発電量
- 風
- ダイオードそのものの状態
- 測定距離
- 測定角度
- 測定範囲
- 表面状態
なども違います。
さらに前回は、今回知ったレーザー位置や距離係数、放射率をほとんど意識していませんでした。
そのため、この比較は、
「同じ設備でも条件や測り方によってこれだけ違う数字が出る可能性がある」
という参考値として考えています。
今回測定した結果を全部まとめる
今回の測定結果をまとめるとこうなりました。
| 測定場所 | 条件 | 測定値 |
|---|---|---|
| 室内温度計 | 空気温度 | 26.3℃ |
| ステンレス板 | 温度計の近く | 26.1℃ |
| ステンレス+黒テープ | 温度計の近く | 25.6℃ |
| ザラザラしたアルミ | 温度計の近く | 25.6℃ |
| 外気温 | 屋外 | 30℃ |
| 並列合流地点 | 18.1A | 42.5℃ |
| 逆流防止ダイオード | 6.1A・垂直測定 | 58.2℃ |
| 逆流防止ダイオード | 水平・レーザーをダイオードへ | 34.1℃ |
| 逆流防止ダイオード付近 | 水平・レーザーを下へずらす | 52.7℃ |
特に注目したいのはこの3つです。
逆流防止ダイオード付近の測定結果
同じ付近でも73010の向きとレーザー位置で表示温度が大きく変わった。0℃20℃40℃60℃80℃垂直測定水平・レーザーをダイオード水平・レーザーを下へ
実測値。測定条件・測定範囲の違いを含む。
この差を見ると、
放射温度計はただ向けてレーザーを当てればいい道具ではない
ということがよく分かります。
今回分かったこと
今回実際に使ってみて、放射温度計を見る目がかなり変わりました。
一番大きかったのは、
レーザーの赤い点=そこだけを測っているわけではない
ということ。
さらに、放射率、材質、表面状態、測定距離、測定範囲、測定方向など、いろいろな条件が測定値に関係します。
そして今回の73010では、
レーザーの約2cm上が測定範囲の中心
という機種特有の特徴もあります。
これを知らずに小さな部品を測れば、
「レーザーは部品に当たっているのに、なぜか温度が低い」
ということが普通に起こり得ます。
今回実際に、
58.2℃ → 34.1℃ → 52.7℃
というかなり大きな違いが出たことで、それを実感できました。
まとめ 「温度計が怪しい」だけではなかった
以前使っていた放射温度計で84.1℃という数字を見た時、私は、
「この温度計、ちょっと信用できないな」
と思っていました。
しかし今回、新しいシンワ73010を買い、「放射率」という言葉を知ったことから色々調べてみると、
温度計だけではなく、
使う側が測定器の仕組みを理解していることもかなり重要
だと分かりました。
特に今回知った、
放射率0.95
距離係数12:1
レーザーポイントより約2cm上が測定中心
レーザーは測定範囲そのものではない
という4つは、73010を使う上ではかなり重要だと思います。
そして、逆流防止ダイオード。
前回は84.1℃。
今回は6.1A流れている状態で58.2℃でした。
前回より低かったとはいえ、外気温30℃に対して約58℃なので、やはりそれなりに発熱しています。
放射温度計について勉強した結果、
「84.1℃だったか、58.2℃だったか」
という数字だけを見るより、
どういう条件で、どこを、どの距離から、どう測ったのか
まで記録することの方が大事だと感じました。
道具は正しい使い方を知って初めて、その性能を生かせる。
ノギスでもテスターでもトルクレンチでも同じですが、放射温度計もまさにそうでした。
もし私と同じように、
「放射温度計なんてレーザーを当ててボタンを押すだけ」
と思っている人がいたら、一度自分の放射温度計の説明書を確認してみることをおすすめします。
意外と、
「えっ、そこを測ってたんじゃないの?」
となるかもしれません。


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